和洋古書善本特選目録第13号 和書の部(6)
新 曲 奈良絵巻
近世前期末写 紙本極彩色十五図 古木函入 二軸 8,925,000円

紙高33.1糎、長サ(上)17米66.5糎、(下)14米68.1糎。布表紙に金色の題簽を付すが、外題、内題ともになし。見返しは金箔。函書に「一條宮并御息所物語」とある。
幸若舞『新曲』の詞章を絵巻に仕立てたもの。曲名は文字通り新しい趣向の曲の意で、天文二十三年(1554)に上演記録がある。『太平記』巻十八「一宮御息所の事」に基づく物語で、後醍醐天皇の第一親王尊良親王と御息所の恋、元弘の乱にまきこまれての二人の悲運、御息所を守る秦武文の武勇、やがて訪れた幸福な再会、を描いた内容。一条兼良の作とされる御伽草子『中書王物語』と同材であるが、『中書王物語』が親王と御息所再会後の死別までを描く悲劇的結末をとるのに対し、本作品は親王と御息所が再会して幸せに暮らすところまでで終わっており、全体として祝言性を前面に出した物語となっている。
本文は金泥の下絵や金箔が施された料紙に、流麗な筆致で書かれている。舞の本の奈良絵本は多くそうであるが、細かな異同はあるものの、刊本「舞の本」とほぼ一致した本文となっている。挿絵は上巻八図、下巻七図の全十五図。上巻は刊本の挿絵と同じ場面を描くものが大部分を占めるが、下巻になると本書独自の場面選択のものが目立つ。特に、亡霊となった武文が現れる場面や、御息所のもとに宮から迎えが来る場面などには、多くの紙幅が費やされ、印象的に描かれている。挿絵には錯簡がままみられるが、本文・挿絵ともに無欠。古木函書には「詞書烏丸光廣卿御筆画土佐家」とあるが、ともに近世前期末頃の写しであろう。画筆はおそらくは土佐派の流れを汲む絵師の手によるものと思われるが、人物の表情をはじめ、その力強い画風はやや狩野派に近く、波紋や景物まで生き生きと
描かれて、霞には金箔を散らすなど、非常に美麗な絵巻である。
本書は保存状態も極めて良好な上、『新曲』の奈良絵本・絵巻は伝本もあまり多くないことからも、非常に貴重なものであるといえよう。

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